「親が認知症になったら、実家は売れなくなる?」
「成年後見と家族信託、どちらを準備すればいい?」
親御さんが施設に入ることになり、誰も住まない実家を売って入居費用に充てたい。そう考えていたのに、認知症で判断能力が低下しているため売却できないと言われるケースがあります。不動産や預金が動かせなくなる「資産凍結」は、相続や介護の現場で大きな問題になりやすいテーマです。
今回は、センチュリー21ウエストエリア代表の大村武司と、えみ司法書士事務所の代表司法書士・邊川恵美先生の解説を元に、認知症による資産凍結のリスク、法定後見制度と家族信託(民事信託)の違い、元気なうちにできる生前対策について解説します。
【重要ポイント】認知症による資産凍結を防ぐ基礎知識
この記事の要点は以下の通りです。時間のない方はここだけチェックしてください。
- 最大のリスク: 認知症などで判断能力が低下すると、不動産売却、預金の引き出し、遺産分割協議が進められなくなる。
- 法定後見制度: 本人を守る公的制度だが、後見人は家庭裁判所が選び、親族以外の専門家が選ばれることも多い。
- 後見人の費用: 専門家が後見人になると、本人が亡くなるまで月額2万〜5万円程度の報酬が発生する場合がある。
- 家族信託の特徴: 親が元気なうちに、信頼できる家族へ財産の管理・処分権限を託す契約を結ぶ方法。
- 準備の期限: 家族信託も任意後見も、本人に判断能力があるうちでなければ進めにくい。
認知症で起こる「資産凍結」とは?
宇野さん(相談者): 親が施設に入ることになったら、実家を売って入居費用に充てればいいと思っていました。認知症になると、それができないことがあるんですか?
大村(専門家): はい。不動産を売るには、売買契約の内容を理解して、自分の意思で判断できることが必要です。認知症などで判断能力が低下していると、本人名義の不動産であっても売却ができず、子どもが代わりに勝手に売ることもできません。
邊川(司法書士): 不動産だけでなく、預金の引き出しや遺産分割協議にも影響します。本人の財産を守るためのルールですが、介護費用を用意したい家族にとっては、必要なお金を動かせない大きな壁になります。2022年のデータでは、65歳以上の約12.3%、約443万人が認知症とされており、決して他人事ではありません。
宇野さん(相談者): 家族なら代わりに手続きできると思っていました。いざ必要になってから気づくと、かなり困りそうですね。
法定後見制度の仕組みと注意点
宇野さん(相談者): では、認知症で判断能力が低下した後に不動産を売りたい場合は、どうすればいいのでしょうか?
邊川(司法書士): 代表的な公的手段が、法定後見制度です。家庭裁判所に申し立てを行い、本人の財産管理や契約手続きを支援する成年後見人を選んでもらいます。悪徳商法や不利な契約から本人を守れる点は、大きなメリットです。
大村(専門家): ただし、家族が希望すれば必ず後見人になれるわけではありません。家庭裁判所が本人の財産状況や親族関係を見て判断し、司法書士や弁護士などの専門家が選ばれることも多くあります。
法定後見制度で押さえたい特徴
- 概要: 判断能力が低下した本人を守るため、家庭裁判所が成年後見人を選ぶ制度。
- メリット: 本人の財産を適切に管理し、詐欺や不当な契約から守りやすい。
- 費用: 専門家が後見人になると、月額2万〜5万円程度の報酬が発生する場合がある。
- 注意点: 不動産売却には家庭裁判所の許可が必要で、売却理由によっては認められない可能性もある。
宇野さん(相談者): 実家を売るために後見制度を使っても、売却が終わったらすぐやめられるわけではないんですね。
邊川(司法書士): その点は特に注意が必要です。法定後見制度は、本人を継続的に守るための制度です。不動産売却が終わったから終了、というものではなく、原則として本人が亡くなるまで続きます。費用面と自由度の両方を理解したうえで検討することが大切です。
家族信託(民事信託)とは?元気なうちにできる対策
宇野さん(相談者): 家庭裁判所の許可や毎月の報酬が必要となると、もっと家族で柔軟に管理できる方法を先に考えておきたいです。
邊川(司法書士): そこで選択肢になるのが、家族信託(民事信託)です。親御さんが元気なうちに、信頼できる子どもなどへ財産の管理や処分を託す契約を結びます。たとえば実家を信託しておけば、将来親御さんの判断能力が低下した後でも、受託者である子どもが契約内容に沿って売却し、そのお金を施設費用などに充てられる可能性があります。
大村(専門家): 不動産の観点でも、家族信託は出口戦略を考えやすい制度です。法定後見制度のように売却のたびに家庭裁判所の許可を求めるのではなく、あらかじめ決めた目的に沿って管理・売却を進めやすくなります。
家族信託で押さえたい特徴
- 概要: 親が委託者、子どもなどが受託者となり、財産管理を託す契約。
- メリット: 認知症になった後でも、契約で定めた範囲で実家の管理や売却を進めやすい。
- 費用: 契約書作成、公正証書、不動産の信託登記などの初期費用がかかるが、後見制度のような毎月の専門家報酬とは性質が異なる。
- 注意点: 本人に判断能力があるうちに契約する必要があり、対応できる金融機関や不動産会社の確認も重要。
宇野さん(相談者): 認知症になってから家族信託を結べばいい、というわけではないんですね。
邊川(司法書士): その通りです。家族信託は契約なので、本人が内容を理解し、納得して契約できることが前提です。「まだ元気だから早い」ではなく、元気だからこそ準備できる制度だと考える必要があります。
任意後見制度も含めて、どの対策を選ぶべき?
宇野さん(相談者): 家族信託のほかに、任意後見制度という言葉も聞きます。これは法定後見制度や家族信託と何が違うのでしょうか?
邊川(司法書士): 任意後見制度は、本人が元気なうちに、将来後見人になってほしい人を契約で決めておく制度です。誰に頼むかを自分で選べる点はメリットですが、実際に判断能力が低下して制度を動かす段階では、家庭裁判所が任意後見監督人を選びます。その監督人への報酬が発生することもあります。
大村(専門家): どの制度が合うかは、財産の内容、家族関係、実家を売る可能性、親御さんの希望によって変わります。特に不動産がある場合は、相続発生後だけでなく、介護中に売却や活用が必要になるかまで考えておくことが重要です。
よくある質問(FAQ)
Q1. 家族信託の契約にはいくらくらい費用がかかりますか?
A. 信託する財産の内容や不動産の有無によって変わります。一般的には、司法書士や弁護士などの専門家への相談・設計費用、契約書作成、公正証書作成、不動産の信託登記費用などが必要です。初期費用はかかりますが、法定後見制度のように毎月継続する専門家報酬とは性質が異なります。
Q2. 遺言書を書いておけば、認知症対策として十分ですか?
A. 遺言書は、亡くなった後の財産の行き先を決めるものです。生きている間に認知症で判断能力が低下し、不動産売却や預金管理が必要になった場面には対応できません。生前の財産管理には、家族信託や任意後見制度などを別途検討する必要があります。
Q3. 親が認知症かもしれない場合、今から家族信託はできますか?
A. 本人が契約内容を理解し、自分の意思で判断できる状態であれば検討できる可能性があります。ただし、判断能力が不足している場合は契約が難しくなります。早めに司法書士などの専門家へ相談し、本人の状態や家族の希望を整理することが大切です。
まとめ
認知症対策は、介護の問題だけでなく、実家や預金を動かせなくなる資産凍結の問題でもあります。後から法定後見制度を使う方法もありますが、費用や手続きの制約を理解したうえで、元気なうちの準備を考えることが大切です。
- すでに判断能力が低下している場合: 法定後見制度など、公的な手続きの利用を専門家に相談する。
- まだ元気なうちに備える場合: 家族信託や任意後見制度を含め、誰が財産を管理し、実家をどうするかを家族で話し合う。
「うちの親はまだ大丈夫」と思える時期こそ、選べる対策が多いタイミングです。認知症対策は、親御さんの財産を守るだけでなく、残される家族が困らないための準備でもあります。
【専門家・大村武司の補足】 家族信託は契約を作って終わりではなく、その後に信託不動産をどう管理し、必要なときにどう売却するかまで設計しておくことが重要です。信託の仕組みに不慣れな不動産会社では、契約や登記の段階で手続きが止まることもあります。ウエストエリアでは、司法書士などの専門家と連携し、家族信託の組成から不動産売却の実務まで見据えたサポートを行っています。
ウエストエリア株式会社では、不動産売却のノウハウだけでなく、税理士や弁護士、司法書士などの専門家と連携し、お客様の手元に最大限の資産を残すための最適なプランをご提案いたします。「遺言で不動産をもらったけれど、どうすればいいか分からない」「少しでも有利に売却したい」という方は、手遅れになる前にぜひ一度ご相談ください。







